ブラキトラケロパンは、ジュラ紀のアルゼンチンに生息していた草食恐竜です。ここではブラキトラケロパンの基本情報と特徴、化石発見と名称の由来、生態と生息環境などをご紹介します。
ブラキトラケロパンの基本情報と特徴
属名 | Brachytrachelopan |
種名(種小名) | Brachytrachelopan mesai |
分類 | 竜脚類 > ディクラエオサウルス科 |
生息時代 | ジュラ紀後期(約1億6,000万 ~ 1億5,000万年前) |
体長(推定) | 約10~11メートル |
体重(推定) | 約5.5トン |
生息地 | アルゼンチン |
食性 | 草食 |
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ブラキトラケロパンは、ジュラ紀後期のアルゼンチンに生息していた竜脚類の一種です。全長はおよそ10〜11メートルと竜脚類の中では比較的小型で、体重は約5トンに達していました。特筆すべき点は、全体のバランスが低い姿勢に適していたことで、他の大型竜脚類が届かない位置の植物を食べることができたと考えられます。加えて、骨の構造から成体であったことがわかっており、体の小ささは成長途中によるものではありません。こうした特徴は、生態系の中で特定の食性を持つ恐竜としての役割を示しています。
首の短さとその役割
ブラキトラケロパンの最も顕著な特徴は、竜脚類としては異例ともいえる首の短さです。頸椎の長さは、同じディクラエオサウルス科の仲間より約40%短く、既知の竜脚類の中でも最短クラスに分類されます。この形態は、高い位置よりも地面から1〜2メートルほどの高さに生える植物を効率よく食べるための適応と考えられています。実際、頸部の骨の形態からは首を大きく反らすことが難しかったと推測され、行動範囲は低い植生に集中していた可能性が高いです。結果として、同時代に大型の低地食性恐竜が少ない南半球で、食物資源を独占できたといえます。
分類上の位置と近縁種
ブラキトラケロパンは、竜盤目>竜脚下目の中でもディプロドクス上科ディクラエオサウルス科に属します。この科の特徴は首の短縮傾向にあり、アフリカのディクラエオサウルスや白亜紀のアマルガサウルスなどが近縁種にあたります。系統解析の結果、ブラキトラケロパンはアマルガサウルスよりもディクラエオサウルスに近い関係にあることが示されています。このような関係性は、大陸分裂後の南半球において、科のメンバーが急速に進化し多様化した証拠とされています。
ブラキトラケロパンの化石発見と名称の由来
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主な化石の発見地と標本
唯一知られているブラキトラケロパンの化石は、アルゼンチン中西部チュブ州のセロ・コンドル北北東約25キロメートルにある丘陵地帯で見つかりました。地層はカニャドン・カルカレオ層に属し、河川砂岩の侵食面から採集されたものです。標本はMPEF-PV 1716として登録され、頸椎8個、胴椎12個、仙椎3個、肋骨や四肢の一部が含まれていました。なお、化石の多くは発見前に侵食で失われていたとされ、残存部分だけでも形態の特徴を把握できる貴重な資料となっています。
発見場所:アルゼンチン チュブ州 セロ・コンドル
名前の由来
ブラキトラケロパンという学名は、「首の短いパン」という意味を持ちます。ギリシャ神話に登場する牧神パンは、羊飼いの守護者として知られます。この恐竜が発見されたきっかけは、地元の羊飼いダニエル・メサが行方不明の羊を探していた際に化石を見つけたことです。そのため、属名には形態的特徴と神話上の存在が組み合わされ、種小名「mesai」には発見者の名前が冠されています。こうして、学術的価値と発見の物語が一つの名称に込められています。
ブラキトラケロパンの生態と生息環境
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生息していた時代と地域
ブラキトラケロパンは、約1億6,000万〜1億5,000万年前のジュラ紀後期に生息していました。地質学的にはオックスフォード期からチトニアン期にあたり、南半球のゴンドワナ大陸に属していた現在のアルゼンチンがその主な生息地です。化石はチュブ州のカニャドン・カルカレオ層から発見され、この地域は当時、河川や氾濫原が広がる湿潤な環境だったと考えられます。こうした条件は、低い位置に繁茂する植物を主食とするブラキトラケロパンにとって、食料が豊富な暮らしやすい環境を提供していました。
生息環境と共存していた動物
当時のアルゼンチンは、広い低地と河川流域が特徴の草食恐竜に適した地域でした。ブラキトラケロパンは低い植生を利用していたため、同じ竜脚類でも高所の植物を食べていた種と競合しにくかったと考えられます。一方で、この環境には肉食恐竜も生息しており、コンドラプトルやピアニツキシサウルス等の小〜中型の獣脚類が捕食者として存在した可能性があります。また、鳥脚類や初期の哺乳類、翼竜なども同じ地域で暮らしていたと推測されます。このような生態系の中で、ブラキトラケロパンは低地の植物資源を独占できる立場にあり、他の草食恐竜とは異なるニッチを占めていたといえます。