アブリクトサウルスは、ジュラ紀前期の南アフリカに生息していた小型の恐竜です。ここではアブリクトサウルスの基本的な情報から特徴、発見された場所と化石、分類、名前の由来などをご紹介します。
アブリクトサウルスの基本情報
属名 | Abrictosaurus |
種名(種小名) | A. consors |
分類 | 鳥盤類 > ヘテロドントサウルス科 |
生息時代 | ジュラ紀前期(約2億年から1億9000万年前) |
体長(推定) | 約1.2メートル |
体重(推定) | 約45キログラム |
生息地 | 南アフリカ |
食性 | 草食もしくは雑食 |
アブリクトサウルスの大きさイメージ
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アブリクトサウルスの概要
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アブリクトサウルスの特徴
アブリクトサウルスは、体長およそ1.2メートル、体重45キログラム未満の小型恐竜です。二足歩行で動き、食性は草食または雑食と考えられています。特に上下の顎に犬歯のような大きな歯を持つ個体がある一方で、全く牙を持たない個体も確認されており、この差異が研究者の注目を集めてきました。顎の先端は歯がなく硬いくちばし状になっており、植物を切り取るのに適していました。また、頬の歯は他の近縁種よりも低く、間隔が広いという特徴があります。さらに、前肢は比較的細く、指の数も少ないため、物をつかむ力はあまり強くなかったと考えられます。
アブリクトサウルスが発見された場所と化石
アブリクトサウルスは、南アフリカのケープ州およびレソトのクァクハスネック地区にまたがる上部エリオット層から発見されました。この地層はジュラ紀前期、約2億年から1億9000万年前のヘッタンギアン期とシネムリアン期にあたります。当時の環境は半乾燥地帯で、季節的な氾濫原や砂丘が広がっていたと推測されています。発見された化石は2つの個体に限られ、それぞれ頭骨や部分的な骨格が保存されています。これらは現在、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンに収蔵されており、貴重な比較研究の資料となっています。
発見場所:レソト クァクハスネック
アブリクトサウルスの名前の由来
属名「アブリクトサウルス」は、古代ギリシャ語の「abriktos(目覚めている)」と「sauros(トカゲ)」を組み合わせたものです。この命名は、当時提唱されていた「ヘテロドントサウルス類が夏眠していた」という説に対し、命名者ジェームズ・ホプソンが反対の立場を示すために考案されました。一方、種小名「consors」はラテン語で「仲間」や「配偶者」を意味し、初めにこの恐竜を記載したリチャード・サルボーンが、牙を持たない標本を雌と判断したことに由来します。こうした背景から、名前そのものが学説や研究者の見解を反映する興味深い例となっています。
アブリクトサウルスの分類
アブリクトサウルスは鳥盤目に属します。さらに、ヘテロドントサウルス科の中でも最も基盤的な位置にあるとされ、亜科はヘテロドントサウルス亜科に分類されています。この系統的な位置づけは、頬歯の構造や犬歯の有無といった形態的特徴に基づいています。他の近縁種であるヘテロドントサウルスやリコリヌスとは、歯列の間隔や歯冠の高さなどで区別されます。このため、分類学的には原始的な特徴と進化の過程を併せ持つ存在として重要視されています。
- 目 : 鳥盤目 (Ornithischia)
- 科 : ヘテロドントサウルス科 (Heterodontosauridae)
- 亜科 : ヘテロドントサウルス亜科 (Heterodontosaurinae)
- 属 : アブリクトサウルス属 (Abrictosaurus)
テロドントサウルスの最新研究
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牙の有無と性別の関係
アブリクトサウルスの研究では、牙の有無が性別と関係している可能性が指摘されてきました。具体的には、UCL A100標本には明確な牙が確認されており、オスの個体。UCL B54標本には犬歯状の牙が見られず、メスの個体と判断された経緯があります。現生動物の中にも、オスだけが牙を持つ種が存在するため、この説は一時的に有力視されました。ただし、牙の有無を性別だけで説明するには化石の数が少なく、確証を得るには今後の発見が欠かせません。
幼体と成体の違い
アブリクトサウルスの標本を詳細に分析すると、幼体と成体では形態的な差があることがわかります。UCL B54は仙椎が未癒合で顔が短く、成長途中の個体であった可能性が高いとされています。このため、牙が欠けているのは性別による特徴ではなく、成長段階による違いである可能性も浮上しました。前述の通り、他の標本では牙が確認されていることからも、この解釈は一定の説得力を持ちます。幼体では咀嚼用の歯や顎の発達も未熟であり、食性や行動にも差があったかもしれません。こうした違いを明らかにすることで、生活史の理解がさらに進むと考えられます。