ネイモンゴサウルス|肉食竜の血を引く不思議な草食恐竜【恐竜図鑑】

白亜紀後期──現在の内モンゴルの乾いた風が、まだ緑の香りを運んでいた時代がありました。
その草原を、ひときわ静かに歩く影があったのです。
細長い首、穏やかな眼差し。肉食恐竜の血を引きながら、草を食む不思議な存在。
それが「ネイモンゴサウルス」でした。

「内モンゴルのトカゲ」という名を持つこの恐竜は、“獣脚類は肉食”という恐竜の常識を覆した異端の存在です。
砂の中で静かに眠っていたその骨格が発見されたとき、研究者たちは息をのみました。
それは、恐竜の進化がいかに柔軟で、いかに多様であったかを示す、生きた証だったのです。

目次

ネイモンゴサウルスの基本情報と特徴

属名Neimongosaurus
種名(種小名)N. yangi
分類恐竜 > 竜盤目 > 獣脚亜目 > テリジノサウルス上科(テリジノサウルス類)
生息時代白亜紀後期(約7,200万〜6,800万年前)
体長(推定)約2.3〜3.5メートル
体重(推定)約90〜230キログラム
生息地中国・内モンゴル自治区(イレンダバス層)
食性草食(植物食)

ネイモンゴサウルスは、見た目こそ小型で愛らしい印象ですが、その存在は恐竜進化史において極めて重要です。
獣脚類、すなわちティラノサウルスやヴェロキラプトルと同じ系統にありながら、
鋭い牙の代わりに“草を噛み切るための歯”を備えていました。

その首は長く、しなやかで、植物を高所から食べるための構造をしていました。
前肢は長く、三本の指にはかぎ爪を持ち、木の枝を手繰り寄せるような動作ができたと考えられています。
柔軟な背骨と軽い骨格は、荒涼とした草原をゆっくりと移動するための“デザイン”だったのでしょう。

ネイモンゴサウルス発見の歴史と命名の由来

ネイモンゴサウルスの化石は、中国・内モンゴル自治区のイレンダバス層で発見されました。
白亜紀後期の地層として知られ、多くの恐竜が眠る“古生物学の宝庫”です。

1999年、古生物学者Zhangらによってこの恐竜が正式に報告されました。
学名はNeimongosaurus yangi(ネイモンゴサウルス・ヤンギ)
「Neimeng」は“内モンゴル”を意味し、「-saurus」は“トカゲ”を表すギリシャ語です。
つまり直訳すると「内モンゴルのトカゲ」という意味になります。
種小名“yangi”は、発見に関わった中国の古生物学者・楊氏(Yang)への献名です。

発見された標本は、首の骨、胴体、骨盤、四肢、尾の一部がほぼ連結した状態で保存されており、この恐竜の全体像を再現するうえで非常に重要な資料となりました。

イレンダバス層からは、他にもテリジノサウルス類やオルニトミムス類などの化石が見つかっており、ネイモンゴサウルスが生きた時代の「アジアの恐竜相」を理解するうえで貴重な比較対象となっています。

ネイモンゴサウルスの生態と行動 ― 草食獣脚類という矛盾

獣脚類でありながら草食という特徴は、ネイモンゴサウルスの最大の謎です。
もともと獣脚類は肉食を主とする系統でしたが、テリジノサウルス類の一部は植物食へと進化しました。

その証拠は、口と腸の構造にあります。
ネイモンゴサウルスの歯は細かく、葉をすりつぶすのに適しており、顎の動きも上下ではなく横方向の摩擦を伴っていました。
さらに、肋骨や骨盤の形状からは、長い腸管を持っていたことが示唆されます。
これは植物を効率よく消化するための典型的な特徴です。

前肢のかぎ爪は、獲物を切り裂くためではなく、枝を引き寄せたり幹を掘ったりするために使われていたと考えられています。
つまりネイモンゴサウルスは、**「獣脚類の姿をした草食恐竜」**だったのです。

一方で、完全に肉食を放棄していたかどうかは議論が残ります。
一部の研究者は「果実や昆虫なども食べていた可能性がある」と指摘しています。
いずれにしても、この恐竜は“進化とは直線ではない”という事実を教えてくれる存在です。
彼らの適応力の柔軟さこそが、恐竜が長く地球上で繁栄できた理由だったのかもしれません。

発見場所:中国 内モンゴル自治区 イレンダバス層

ネイモンゴサウルスの化石が発見された**イレンダバス層(Iren Dabasu Formation)**は、中国・内モンゴル自治区北部に広がる白亜紀後期の地層です。
砂岩と泥岩が交互に堆積しており、当時は広大な河川氾濫原だったと考えられています。

現在の風景は乾いた荒野ですが、約7,000万年前には川が流れ、シダ植物や低木が茂る湿地帯が広がっていました。
ネイモンゴサウルスはその中でゆったりと歩き、群れで生活していた可能性もあるといわれています。

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