パタゴサウルスは、ジュラ紀のアルゼンチンに生息していた草食恐竜です。ここではパタゴサウルスの基本的な情報から特徴、発見された場所と化石、分類、名前の由来などをご紹介します。
パタゴサウルスの基本情報
属名 | Patagosaurus |
種名(種小名) | P. fariasi |
分類 | 竜脚類 > ケティオサウルス科 |
生息時代 | ジュラ紀中期(約1億7,800万年前) |
体長(推定) | 約15~18メートル |
体重(推定) | 約7~9トン |
生息地 | アルゼンチン |
食性 | 草食 |
パタゴサウルスの大きさイメージ
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パタゴサウルスの概要
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パタゴサウルスの特徴
パタゴサウルスは、全長およそ16〜18メートルに達する大型の草食恐竜で、長い首と尾、小さな頭を持つ竜脚類の一種です。体重は推定で約7〜9トンあり、がっしりとした骨格ながらも前肢は比較的華奢で、後期のより頑丈な竜脚類とは異なる特徴を示します。頸椎や胴椎、仙椎の構造には独自性があり、とくに仙椎の神経管の形状は他の竜脚類と一線を画します。幼体と成体では骨格の比率や形態が異なり、成長過程の研究にも重要な資料となっています。また、歯の形はカマラサウルスやエウヘロプスに似ており、約58日ごとに生え替わるという特性も確認されています。
パタゴサウルスが発見された場所と化石
パタゴサウルスの化石は、アルゼンチン南部パタゴニア地方にあるカニャドン・アスファルト層で発見されました。この地層は約1億7900万〜1億7800万年前、中期ジュラ紀トアルシアン期に堆積したもので、湖や河川、火山活動が共存する特殊な環境でした。化石は1970年代に複数の個体から見つかり、成体・幼体を含む少なくとも12点以上の標本が報告されています。その中にはほぼ完全な骨格や頭骨の一部も含まれ、前肢や胸帯など従来不明だった部位の情報が得られました。一部の標本は別属である可能性も指摘されていますが、主要な資料はパタゴサウルスに確実に属するとされています。
発見場所:アルゼンチン チュブ州 セル・コンドル(パタゴニア地方)
パタゴサウルスの名前の由来
属名「パタゴサウルス」は、「パタゴニアのトカゲ」という意味で、化石が発見された地域名と爬虫類を表す語を組み合わせて名付けられました。1979年に古生物学者ホセ・ボナパルトが記載し、タイプ種である「P. fariasi」は、最初の発見地に関わったリカルド・ファリアスへの敬意を込めて命名されています。命名当時は頭骨が欠けた骨格が基準資料となりましたが、その後の発掘で下顎や幼体の頭骨が見つかり、頭部の形状や歯の特徴についても明らかになりました。こうした経緯は、学名が単なる呼称ではなく、発見の歴史や人物への感謝を伝える重要な要素であることを示しています。
パタゴサウルスの分類
パタゴサウルスは竜脚類の中でもケティオサウルス科に属するとされますが、その位置付けは研究の進展とともに変化してきました。当初はケティオサウルスの近縁種と考えられましたが、2009年の系統解析ではより基盤的な位置に置かれる結果も出ています。一方で、2021年の研究では再びケティオサウルス科に含まれるとの見解が示されました。近縁にはフォルクヘイメリアやバラパサウルス、スピノフォロサウルスなどがあり、骨盤や椎骨の特徴から進化段階を推測することができます。このように、分類は固定的なものではなく、新たな化石資料や解析手法によって今後も更新される可能性があります。
- 目 : 竜盤目 (Saurischia)
- 亜目 : 竜脚形亜目 (Sauropoda)
- 下目 : 竜脚下目 (Sauropoda)
- 科 : ケティオサウルス科 (Cetiosauridae)
- 属 : パタゴサウルス属 (Patagosaurus)
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パタゴサウルスの生態と生活環境
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群れで暮らしていた証拠
パタゴサウルスの化石は、成長段階の異なる複数の個体が同じ場所から発見されています。これにより、単独で行動するよりも群れを形成して生活していた可能性が高いと考えられます。群れでの生活は、捕食者から身を守る手段として有効であり、さらに食料資源の探索や移動の際にも利点があります。例えば、幼体と成体が同じ化石層から出土していることは、子育て期間中も群れを保ち、若い個体を守っていたことを示唆します。こうした社会的行動は、竜脚類の中でも比較的早い時期から発達していた可能性があります。
生息していた地質時代と環境
パタゴサウルスが生きていたのは、約1億7900万〜1億7800万年前の中期ジュラ紀トアルシアン期です。当時のパタゴニア地方は、湖や河川が広がる地域で、周囲には火山活動による火山灰が堆積していました。特に化石が見つかったカニャドン・アスファルト層は、塩分濃度やアルカリ度の高い湖沼環境と、その周辺の低エネルギーな陸地が共存する特殊な地形を形成していました。また、火山活動の影響で土壌は養分が豊富で、さまざまな植物が繁茂していたと考えられます。こうした環境は、草食恐竜にとって十分な餌資源を確保できる理想的な場所でした。
共存していた動植物
同じ地層からは、パタゴサウルス以外にも多種多様な動植物の化石が見つかっています。植物では、シダ類や針葉樹、トクサ科などが繁茂しており、湖沼にはシャジクモ類のような水生植物も存在しました。動物相では、他の竜脚類であるフォルクヘイメリアやバグアリア、小型草食恐竜のマニデンス、さらに獣脚類のピアトニツキーサウルスやコンドラプトルが知られています。水辺には両生類ノトバトラクスや、淡水性のカメであるコンドルケリスも生息していました。このように、多様な生物が同じ環境を共有しており、パタゴサウルスはその中で重要な大型草食動物として生態系に組み込まれていたといえます。