サウロルニトレステスは、白亜紀のカナダからアメリカの広範囲にわたって生息していた小型の肉食恐竜です。ここではサウロルニトレステスの基本的な情報から発見された場所と化石、特徴と分類、名前の由来などをご紹介します。
サウロルニトレステスの基本情報
属名 | Saurornitholestes |
種名(種小名) | S. langstoni S. sullivani |
分類 | 獣脚類 > ドロマエオサウルス科 |
生息時代 | 白亜紀後期(約8,800万 ~ 8,360万年前) |
体長(推定) | 約1.8メートル |
体重(推定) | 約10キログラム |
生息地 | カナダ、アメリカ |
食性 | 肉食 |
サウロルニトレステスの大きさイメージ
大きさ-恐竜図鑑.jpg)
サウロルニトレステスの概要
-恐竜図鑑-4.jpg)
サウロルニトレステスの特徴
サウロルニトレステスは、小型で俊敏な肉食恐竜として知られています。全長はおよそ1.3〜1.8メートル、体重は5〜22.5キログラムほどで、腰までの高さは約60センチメートルです。両脚は長く、軽量な体格を持ち、他のドロマエオサウルス類と比べても素早く動けたと考えられます。
最大の特徴は後脚第2指にある湾曲した大きな鉤爪です。これは獲物を仕留める際や防御に使われたと推測されています。さらに、顎の前方には牙のような大きな歯が並び、獲物の肉を裂くのに適していました。嗅覚も優れていた可能性があり、特にS.スリヴァニでは脳内の嗅球が大きいことから、高い感覚能力を持っていたと見られます。鋭い嗅覚は、獲物の追跡や死肉の発見に有利だったと考えられます。

サウロルニトレステスが発見された場所と化石
サウロルニトレステスの化石は、北アメリカ大陸の広い範囲で見つかっています。カナダのアルバータ州やサスカチュワン州、アメリカではモンタナ州やニューメキシコ州に加え、アラバマ州やサウスカロライナ州でも歯や骨が報告されています。特にアルバータ州の州立恐竜公園は重要な産地で、ここからは頭骨や歯を含む多数の標本が見つかっています。
化石は白亜紀後期のカンパニアン後期(約8,800万 ~ 8,360万年前)の地層から発見され、同じ属の化石であっても、地層によって年代が数百万年異なることがあります。また、東海岸で確認されている唯一の確実なドロマエオサウルス科の化石としても注目されており、地理的な分布の広さは、この恐竜が多様な環境に適応していた証拠といえます。
発見場所:カナダ アルバータ州
サウロルニトレステスの名前の由来
サウロルニトレステスという属名は、古代ギリシャ語で「トカゲ鳥泥棒」を意味します。この名前は、当初この恐竜がサウロルニトイデス科に属すると考えられ、その名称の一部「Saurornithoides(トカゲ鳥)」に「lestes(泥棒)」を組み合わせたことに由来します。
1978年、古生物学者ハンス=ディーター・スースが、カナダ・アルバータ州で見つかった化石を基に模式種Saurornitholestes langstoniを命名しました。種小名の「langstoni」は、古生物学者ワン・ラングストン・ジュニアへの献名です。こうして命名された名前は、学術的な背景と発見者への敬意が込められたものとなっています。
サウロルニトレステスの分類
サウロルニトレステスは、獣脚亜目に属するドロマエオサウルス科の一員です。現在はエウドロマエオサウルス類の中でも「サウロルニトレステス亜科」に分類され、近縁種としてアトロキラプトルが挙げられます。
- 目 : 竜盤目 (Saurischia)
- 亜目 : 獣脚亜目 (Theropoda)
- 下目 : テタヌラ下目 (Tetanurae)
- 科 : ドロマエオサウルス科 (Dromaeosauridae)
- 属 : サウロルニトレステス属 (Saurornitholestes)
1978年の記載当初はドロマエオサウルス亜科とされたものの、その後の分岐解析によってより基盤的な位置にあることが示されました。2種が知られており、模式種のS.ラングストニと、ニューメキシコで発見されたS.スリヴァニが存在します。前述の通り、地理的にも時代的にも広範囲に分布したことから、多様な環境に適応できる系統群だったと考えられています。
サウロルニトレステスの食性と古生物学的知見
-恐竜図鑑-8-1024x559.jpg)
食性と狩りの方法
サウロルニトレステスは、小型ながらも敏捷な肉食恐竜で、獲物を捕らえる際には特有の「穿刺・引張」型の食べ方をしていたと考えられます。これは、鋭い鉤爪や歯で獲物の体を突き刺し、そのまま肉を引き裂く方法です。歯の摩耗パターンからは、同じ環境にいたトロオドン類よりも大きな獲物を選んでいた可能性が示唆されています。
例えば、小型哺乳類や鳥類だけでなく、小型恐竜や翼竜までも狙ったと推定されます。実際、サウロルニトレステスの歯が大型翼竜の骨に刺さったまま発見された事例もあります。こうした証拠は、死肉を漁る行動もあったことを示しており、単純なハンターではなく、環境に応じた柔軟な食性を持っていた恐竜だったといえるでしょう。
他の恐竜との関係と捕食者
サウロルニトレステスは、同じ時代の北アメリカ西部や東部で多くの恐竜と共存していました。草食恐竜ではハドロサウルス類や角竜類、小型の鳥脚類などが生息しており、これらが重要な餌資源となっていた可能性があります。また、同じドロマエオサウルス科のドロマエオサウルスも同じ地域にいたため、捕食対象や行動範囲で競合する場面もあったでしょう。
一方で、サウロルニトレステス自身も捕食者から狙われる立場でした。化石にはティラノサウルス類の若い個体(ゴルゴサウルスやダスプレトサウルスが有力)による噛み跡とみられる痕が残されており、大型肉食恐竜に襲われる危険があったことがわかります。こうした捕食関係は、当時の生態系における位置づけを知るうえで重要な証拠となっています。